ヨーハヤサカエクスペリメント

ここでは早坂葉が書いた文章をいろいろ読むことができます。

2024/04/12

 初日から強烈な打撃を喰らった感覚がある。

 受付スタッフをやっている展覧会に出資しているスポンサーの社員の人が見に来てるときはすぐに分かる。上から下まで自社ブランドの服だから。その人が階段に膝をついて床を掃除しているから何かと思ったら、VIPがやってくるのだという。普段なら気にもとめない汚れを一心不乱に取り除いている。彼女がこっちを向いて、VIPが来るときは椅子に座らずに受付に立っていてくれとか、専用のスリッパを並べてくれとか言うのだが、「いやです」とも「あなたがやってください」とも言えず、おとなしくVIPのためにスリッパを並べる。会場の前に黒塗りの車が止まって、VIPが降りてくる。やっぱり全身、****の服!何分置きかに訪れるVIPそれぞれに対して、社員が「素敵なお召し物ですね」とかそれに類する賛辞を送るのはたいてい、はじめの挨拶から3,4秒後、VIPの左脇、遠すぎず近すぎぬ距離に近寄ってからなのだという法則がわかるころには、苦虫を噛み潰したような顔を隠す気がなくなっていた。この人たちが、これから作品の前でどんな話をするのか……。オエーッ!

 最悪だったのはこの後で、俺はVIPの一団が先に入ってしまっているからという理由で、その後に受付に来た何人かの客を帰らせなければならなかった。俺はなんのためにこの仕事をしているんだ、とマジで思った。いや、これが自分でも最悪だなぁと思う話なんだけれど、以下のように思ってしまったんだな。「この人たちが入っていったら、この人自身が居心地の悪い思いをするだろう」と。なぜなら、あまりにも住んでいる世界が違うように思われるからだ。あまりにも”お召し物”の値段に差がありすぎるのが目に見えているからだ。クソが。

 唯一の救いは在廊していた作家が現れたときだった。彼はボロボロのスニーカーのかかとを踏み潰して現れ、俺が何人目かの客を帰らせようと喋れない英語でコミュニケーションを取ろうとしているのを遮ってこう言った。「He is my friend.」それで、俺は彼を会場に入れた。救われたのかもしれないけど、俺は自分の行いを恥じた。何をやっているんだ俺は。

 うるせえクソが全部ぶち壊す、という思いを何かに変換できたらいいのだが。